きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

超過換気? それとも検査エラー?

動脈酸素分圧の上限推定
先日、労作時倦怠感を訴える頻呼吸のある患者の動脈ガスでPaO2:140、PaCO2:20という値をみました(室内気)。超過換気なのか?という疑念が生じましたが、下記理由で検査エラーとの結論になりました。
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・空気中酸素分圧>肺胞内酸素分圧>動脈酸素分圧

・空気中酸素分圧(PIO2):{大気圧(760mmHg)-水蒸気圧(37℃で47mmHg)}酸素濃度(21%)≒150mmHg
www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1592.pdf

・肺胞内酸素分圧(PAO2):空気中酸素分圧-体の酸素消費分の分圧=PIO2-PaCO2/呼吸商

→PAO2:150-20/0.8=125mmHg

※呼吸商:単位時間あたりのCO2排出量/単位時間あたりのO2消費量と定義される。糖、脂質、蛋白室の3大元素の中では脂質代謝のみだと呼吸商が0.71となり最低、糖代謝のみだと1.0と最大。ヒトの呼吸商は間をとり基本的に約0.8となる。
www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1592.pdf

肺胞内酸素分圧>動脈酸素分圧であり、動脈酸素分圧は125mmHg未満となるはずである。

※この肺胞内酸素分圧と動脈酸素分圧の差をA-aDO2といい、1型呼吸不全が生じる拡散障害、V/Qミスマッチ、シャントの病態でより開大します。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3555

計算上、肺胞内酸素分圧が125mmHgとなるので、血中酸素分圧がそれ以上となることは考えづらく、このデータは検査エラーと解釈しました。翌日、同患者の同一動脈ガス検体を、検査エラーの出た機械と別の機械の2つで精査しましたが、本データを出した方の機械がPaO2:120mmHg、別の機械がPaO2:106mmHgと著明な乖離を認め、検査エラーの結論の裏をとりました。なお、呼吸商は糖代謝ばかりの人では1に近くなるなど個別化しないと実際のPAO2とずれが生じる場合もありますが、PAO2>140となるには呼吸商>2が必要となり、酸素消費量の2倍二酸化炭素が出る代謝システムが必要になるため、ありえないと考えました。
https://newoem.blog.ss-blog.jp/2015-03-03-3

A-aDO2の概念を理解する良い事例だと思ったので共有します。