きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

ホスピタリストも知っておきたいリハビリ算定の基礎知識

リハビリには下記の表の通り主に6種類の区分があり、各々で算定日数制限や点数などの違いがあります。 

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リハビリテーション料(Ⅰ)の届出を行った保険医療機関の点数

どの患者にどのリハビリ区分で算定するかはリハビリテーション医が詳しいですが、リハビリを専門にしていない一般のホスピタリストの先生方にも知っておいてもらいたい基礎なのでまとめてみました。

各々のリハビリの適応は下記の通りです。概念を理解しやすくするため、おおまかな適応を言語化して記載します。詳細な適応については添付したURLをご参照ください。

 

・脳血管リハの適応:

神経疾患(筋炎含む)、発達障害、難聴、構音障害を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-30/420

・運動器リハの適応:

骨、関節、筋、腱の障害を有する患者、もしくは運動器不安定症を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1483

https://www.joa.or.jp/public/locomo/mads.html】※運動器不安定症について

・呼吸器リハの適応:

呼吸器疾患を有する患者、もしくは頚胸部~上腹部の手術をする患者(術後肺炎予防)

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1489

・心大血管リハの適応:

心血管疾患を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1424

・廃用リハの適応:

急性疾患に伴う安静で、FIM (Functional Independence Measure)≦115点、もしくはBI (Barthel Index)≦85点の患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1454

https://hospital.tottori.tottori.jp/files/20180720151507.pdf】※FIMやBIについて

・がんリハの適応:

がんの手術、化学療法(骨髄抑制を来しうるもの)、放射線治療、造血幹細胞移植をする患者。

 【https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1695

 

※嚥下障害があり嚥下内視鏡や嚥下造影検査で毎月確認できる場合、上記6つのリハ区分とは別に摂食機能療法という枠で摂食嚥下リハビリを行うことができます。こちらは30分以上のリハビリで1日185点となっています。発症4ヶ月以降は月に4日のみ算定可能となります。

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1672

 

 

 

入院患者の2/3が高齢者となった現代では、患者に複数のProblemがあることが多く、

患者によっては複数のリハの適応がある場合があります。

その際は各々のリハビリの違いにより、どのリハビリを算定するか考えることになります。

 

なお、発症もしくは手術/急性増悪によりFIMが1週間で10点以上低下した場合は、早急にリハビリ介入した方がADL改善に良いためそのリハビリには加算がつけられています。初期加算として発症もしくは手術/急性増悪日(起算日)から14日間まで45点/単位が追加になり、早期リハビリテーション加算として起算日から30日目まで30点/単位が追加になります。よって初期加算+早期リハビリテーション加算を合わせると、14日までで75点/単位、15-30日で30点/単位が追加されることになります。

 

なんとなく分かりましたか?

習熟度の確認に、下記に例題を出すのでリハビリ区分の選択や点数について考えてみてください。

 

■例題.

80歳女性。心房細動を伴う心不全および右被殻梗塞の既往あり左不全麻痺と軽度嚥下障害を有するが、杖歩行でADL自立していた。急いで食事を食べたときのむせ込みをきっかけに3日前から発熱、咳嗽、喀痰、両下腿浮腫、労作時呼吸困難あり、体動困難になり救急搬送。脳梗塞の再発を疑う所見はない。誤嚥性肺炎に伴う心不全急性増悪の診断で入院となった。病院に嚥下内視鏡や嚥下造影を行える設備はない。

 

いかがでしょうか。キーポイントは下記です。

・ 今回の入院は脳梗塞加療目的ではないため、脳血管リハは考慮されない。

誤嚥性肺炎は呼吸器リハを算定できる。

心不全急性増悪は心大血管リハを算定できる。

・ADLの低下から廃用リハを算定できる。

・嚥下内視鏡や嚥下造影ができないので摂食機能療法でのリハは考慮されない。

 

このなかで、誤嚥を来しているため入院中ST(言語聴覚士)の介入も依頼したいので、STを処方できない心大血管リハは好ましくないです。

嚥下内視鏡や嚥下造影ができる施設の場合、PTやOTを心大血管リハで算定しつつSTの介入は摂食機能療法で算定することもできますが、本症例では適応外です。

また廃用リハは、その汎用性の高さからいざというときに残しておきたいという思考をリハ医は持っています。必ず廃用リハの期限が切れる120日以内で退院できれば良いですが、予定外のことも起こり得ます。新たな疾患を合併するなどして入院が長引いた場合、そこを起算日として別のリハビリを処方することができますが、その時のために汎用性の高い廃用リハを残しておきたいのです。

なので、廃用リハより5点/単位低いですが、私だったらまず呼吸器リハで算定します。

もちろんADLの低下の程度から初期加算や早期リハビリテーション加算の適応があるので、両者も算定します。

 

・起算日~14日:175+45+30=250点/単位

・15~30日:175+30=205点/単位

・31~120日:175点/単位

※120日で退院できなかった際は、その理由にもよるが廃用リハに切替え考慮:180点/単位

 

なおリハビリは1日6単位(回復期リハ病棟は1日9単位)まで認められており、急性期病棟では包括医療費支払制度方式(DPC)を導入している病棟もリハビリは包括評価部分とは別に出来高部分として算定することができます。

※1単位:20分

 

以上、リハビリ算定の基礎知識についてまとめてみました。

リハビリ医がいない医療機関も多いので、リハビリを専門にしていない一般のホスピタリストの先生方も知っておいて損はないと思います。少しでもリハビリへの理解が深まれば幸いです。