産業医の資格をとりました
内容がとても有意義で、産業医の存在は臨床医のみならずすべての労働者に知る価値があることだと思ったので概要を共有します。
労働者には、自らの健康を保つよう努める自己保健義務がありますが、事業所にも労働者の健康を守る義務である安全配慮義務があります。
安全配慮義務を十分果たすために、労働者が50人以上いる事業所は産業医の選任が義務付けられています。産業医は事業者(社長)に安全配慮義務に関わる提言を求められており、事業者も産業医の勧告を尊重しなければならないと定められています。
産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項に規定されていますが、大きく分けると下記の3つになります。
①労働者の作業環境管理
※例:熱中症対策、換気対策、転倒防止対策、光源確保、疲れにくい椅子整備etc
②労働者の作業管理
※例:マスク装着指導、ヘルメット装着指導、手指衛生指導etc
③労働者個人の健康管理
※例:受診勧奨、出勤の可否判断・配置転換etc
上記管理を行うために、職場巡視(1-2カ月に1回以上義務)、事業所の安全衛生委員会への参加、事業所マニュアル作成(発熱時対応マニュアルetc)、健診・ストレスチェック評価、懸念がある労働者への面談、健康教育などを行うことが求められています。
対応疾患の守備範囲はとても広く、下記の例のように多岐に渡ります。
・うつ病などメンタルヘルスに問題を来した患者の受診勧奨、時短勤務や休職、配置転換の推奨。復職の推奨。
・新入職した障害者に働きやすい環境を提供。
・重度高血圧症だがシフトによる不定期勤務で降圧薬など内服忘れがある患者の勤務時間固定の推奨。
・睡眠時無呼吸症候群の疑いがある労働者に受診勧奨し、運転業務からの配置転換の推奨。
・じん肺を発症した患者の配置転換を推奨し、作業環境管理や作業管理を見直す。
・インフルエンザやCOVID-19に罹患しないよう手指衛生や密を避ける指導を行い、従業員が罹患してしまった際のフローチャートも作成する。
・生活習慣病予防・社内健康増進目的に、社内健康教室や社内運動会を企画。
なので、労働者は産業医の存在を知っているだけで、いざという時に頼ることができます。また臨床医も産業医の存在を知っているだけで、受持患者の労働環境に懸念がある場合は産業医と相談するよう指導することができます。
産業医と臨床医の連携も重要で、産業医から臨床医へ情報提供依頼をすることが多いですが、臨床医から産業医への書面での情報提供も可能です。診断書扱いで作成して患者に渡し産業医と相談するよう伝えたり、診療情報提供書(産業医は保険医療者ではないので保険点数はとれない)を作成したりする方法があります。
なお、じん肺などの職業病に関しては比較的厳密な就業制限の規定がありますが、それ以外の生活習慣病などは厳密な規定はなく、産業医が個々のケースごとに就業制限の必要性などを判断します。その際、産業医が大体どれくらいの値の時に就業制限を考えるかという研究結果があり、判断の参考になるかもしれません。
・収縮期血圧:180mmHg以上
・拡張期血圧:110mmHg以上
・Cre:2.0mg/dL以上
・ALT:200IU/dL以上
・空腹時血糖:200mg/dL以上
・随時血糖:300mg/dL以上
・Hb:8.0g/dL以下
【https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1539/joh.15-0188-OA】
疾患に関し職場環境の改善を産業医に検討してもらう選択肢を持てたことが、個人的には一番の収穫でした。今後機会があれば実際に産業医としても働いてみたいと思います。
【https://www.mhlw.go.jp/content/000501079.pdf】