きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

脊髄損傷患者の便秘症ではどの薬を選択すればよいか

ドイツのガイドラインを参考にしました。1)
日本の"脊髄損傷の排便マニュアル"2)や英国のガイドライン3)は薬の記載はあっても選択優先度の記載はなく、オーストラリアのガイドライン4)は薬の記載が乏しく代わりに非薬物治療のフローチャートの記載が充実していました。
 
脊髄損傷を含む神経因性腸機能不全は、S2-4の排便中枢より上の障害か否かで、上位運動ニューロン病変と下位運動ニューロン病変に分かれます。円錐部脊髄損傷以外は基本的には上位運動ニューロン病変になります。
上位運動ニューロン病変では便秘が、下位運動ニューロン病変では便失禁が問題になりやすいです。
上位運動ニューロン病変の場合、Bristol stool scale:3-4で2日おきの排便が目標になります。
下位運動ニューロン病変の場合、Bristol stool scale:2-3で1日1-2回の排便が目標になります。
 
そのために用いられる手段のピラミットは文献1)の図2に記載されています。

 
このピラミッドの最下層の薬物療法において、定期的な排便排出を得るためにまず経肛門下剤を考慮し、腸管の運動性や便の硬さに応じ経口下剤も併用していくことが推奨されています。使用薬剤もレベル1,2,3に分かれ文献1)の図3に記載されています。レベル3の経口下剤は短期間のみ使用が推奨されています。
 
経肛門下剤のレベル1はCO2下剤であり、新レシカルボン座薬などが該当します。
経肛門下剤のレベル2はグリセロールやソルビトールによる潤滑剤(おそらく日本なし)や浸透圧薬による浣腸が該当します。
経口門下剤のレベル3は刺激性下剤であり、テルミンソフトなどが該当します。
 
経口下剤のレベル1は主に食物線維豊富な食品が記載されています。
経口下剤のレベル2は浸透圧性下剤であり、ラクツロース、マグネシウムポリエチレングリコールが記載されています。
経口下剤のレベル3はセ浸透圧性下剤であり、センナ、ピコスルファート、ビサコジルが記載されています。
 
1). I Kurze, et al. Guideline for the management of neurogenic bowel dysfunctin in spincal cord injury/disease. Spinal Cord. 2022; 60(5):435-43. PMID:35332274. 【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35332274/
2). 赤居正美. 脊髄損傷の排便マニュアル. 2013.【http://www.rehab.go.jp/application/files/4815/2039/6868/07_29_01_PDF3.7MB.pdf
3). Guidelines for management of neurogenic bowel dysfunction in individuals with central neurological conditions. 2022 Jan 10. 【https://www.mascip.co.uk/wp-content/uploads/2015/02/CV653N-Neurogenic-Guidelines-Sept-2012.pdf
4). Management of the neurogenic bowel for adults with spinal cord injuries. 2022 Dec.
 
ピラミットやレベル別の記載は有難いですが、非侵襲的治療法で腸の動きが悪いタイプ(例:便は柔らかいのに少ししか出ず、直腸まで降りてこない)に対する記載は乏しく、レベル3の経口下剤は短期しか使えないとするとどうアプローチすればよいかわかりませんでした。下痢便をある程度許容し、レベル1や2の薬を増やすべきなのか、やむなしでレベル3の薬を使っていくのか、悩ましいところです。