きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

アルコール性肝炎で白血球が高値になる理由

3週間以上の発熱および白血球著明高値を来しているアルコール性肝炎の患者をみました。
恥ずかしながらアルコール性肝炎の知識や診療経験が少なく、膠原病などが合併している可能性を考えていたのですが、どうやらアルコール性肝炎だけでも発熱や白血球高値を来しうるようです。調べてみたことを共有します。
 
アルコール性肝炎では、他の肝疾患と比較し白血球や血小板数が高いことが知られています。中には白血球が5万以上に上昇する症例も報告されており、Uptodateでは12.9万の報告もあるようです。分画としては好中球優位の上昇になります。白血球著明高値は白血病反応と呼ばれ、アルコール性肝炎の場合死亡率と相関するようです。
アルコール性肝炎で白血球が上昇する機序は正確には分かっていませんが、仮説の1つとしてはアルコールにより腸管内のグラム陰性桿菌(腸内細菌叢)が出す内毒素(エンドトキシン)の門脈移行性が高まり、肝臓内のマクロファージであるでクッパ―細胞がそれに反応し様々なサイトカインを分泌させる機序が示唆されていたりします。
アルコール摂取をやめてもすぐに改善するわけではなさそうで、添付の症例では入院4週後にようやく白血球のピークアウトが確認できています。
おまけですが、アルコール性肝炎ではAST/ALTは2倍以上になることが多く、これはALTの酵素活性補酵素であるピリドキサール5リン酸(Vit B6の活性型)がアルコール依存症で欠乏しやすいためと言われています。
なお、本症例は脾腫と脾梗塞を来していましたが、門脈圧亢進により脾腫が起こり、脾臓の酸素必要量が増加することで非閉塞性の脾梗塞が起こることがあるようです。【https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7155995/