きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

小児・AYA世代のがん療養について

30歳代の脳腫瘍末期の方を診察しました。

40歳未満なので介護保険は使えず、自宅退院には凄くハードルが高いこの世代。

この制度の"谷間"の世代は小児・AYA(Adoecent-Young Adult)世代という名で呼ばれることがあるようです。

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO61808990S0A720C2KNTP00/

 

何か使える制度がないかと悩んでいたら、社会福祉士から"若年がん患者の在宅療養生活支援事業"という制度について教えてもらいました。

これは地方自治体ごとの制度であり、幸い自分の勤務地はこの制度がある地方自治体ですが、まだないところもあるようです。

https://www.city.kofu.yamanashi.jp/kenko_seisaku/jyakunengan.html

https://www.city.kasuga.fukuoka.jp/kosodate/kenkou/kenkouinfo/1005247.html

 

助成金は月に数万円までのことが多く、悪性腫瘍末期の介護に充てるには足りないと思われる点は今後の課題だと思いますが、素晴らしい取り組みだと思います。

このような制度の"谷間"の世代への補助が、どこでも受けられるようになると良いなと思います。

医療者も、自分の自治体でこのような制度があるかどうかを知っておくと、いざというときに提案できて良いかもしれません。

 

 

 

 

働くすべての人が知っておきたい、傷病者手当について

現在リハビリ科研修の中で、社会福祉の制度について勉強する機会を頂いています。

その中で"傷病者手当"についてはすべての労働者が知っておいた方が良い知識だと思います。個人的に大事なだと思った点についてまとめて共有します。

 

■受給対象

社会保険加入者(国民健康保険は該当外)

・業務外での病気やケガのため医師の診察を受け、労務不能と判定され3日以上連続して仕事を休み、4日目以降も休んだ日がある方

・同一傷病では1回のみ申請可能(他の傷病では再度申請可能)

 

※このため、自営業(国民健康保険)の方は対象外になります。その理由については下記URL参照。

https://diamond.jp/articles/-/174701

※ちなみにCOVID-19感染での休業であれば国民健康保険の方でも受給できるように制度改正が行われています。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64427?pno=2&site=nli

※業務内での病気やケガは労災保険の守備範囲になります。

 

■受給期間および受給額

・休業4日目から受給対象となります。

・最長18カ月受給できます。

・受給額は、過去12か月の平均月収の2/3です。

 

※有給消化した場合、月収全額もらえるためまずは有給を消化したあとに傷病手当金の受給をすることが多いです。なお有給期間も、受給条件である3日以上の休業期間に含めることができます。また、給料が支給されていたり、同じ傷病でで障害厚生年金など他の支給がある場合、傷病手当金の支給額の調整がなされます。

 

■受給手順

①申請書を入手(会社からもらったり、自分でwebからダウンロードする)

※下記は全国健康保険協会協会けんぽ)加入者向けのフォーマットです。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124/

 

②主治医に"療養担当者記入用"の欄に傷病名などを記載してもらう。

※書類発行料で数千円かかります。

 

③自分で"被保険者記入用"の欄に記入する。

 

④会社に提出し、"事業主記入欄"に勤務状況や給与などを記載してもらう。

 

⑤上記で書類が完成したら、加入している健康保険団体に書類を提出する。

協会けんぽの場合、健康保険証に書かれている支部の住所に郵送するか持参します。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat610/cat210/2002-2713/

※会社が書類を郵送してくれたりします。

 

⑥受給決定がなされたら、自分の指定銀行口座にお金が振り込まれます

https://partners.en-japan.com/qanda/desc_1037

 

■その他

傷病手当金は、過去の休業に対してのみ申請できます。そして1か月単位で申請しても1年半分を一気に申請しても良いことになっています。申請毎に書類提出が必要になり、手数料もかかるのでお金に余裕がある方は一括申請の方が良いかも知れません。ただお金に余裕がない方は、休業中も社会保険費の支払いは継続されるため、それの支払いのために1か月単位で申請する方もいます。

 

・退職し社会保険から脱退した後でも、傷病の発症が在職期間内であれば、遡って申請することができます。

 

・支給に当たっては、毎月保険料を納めている社会保険組合からお金が支給され、会社がお金を払うわけではないので、会社に申し訳ないとは考えなくても良い。

 

 

以上、個人的に大事だと思う点をまとめてみました。

医師は傷病手当支給申請書の"療養担当者記入用"を書く機会の方が多いと思いますが、制度の概要を知っておいた方が自分が必要になったときや患者に相談されたときにも適切な対応をとれるようになると思います。

上大静脈症候群で目脂が増える?

後輩がみた上大静脈症候群の患者が目脂の増加を訴えていたようなので、何か病態生理上意味がある訴えなのか調べてみました。

 

涙液は下記の3層構造からできています。

・最内層:主に円蓋部結膜にある杯細胞から産生されるムチン層

・中間層:涙腺によって生成された水分とWolfring腺とKrause腺の分泌物からなる水層

・最外層:マイボーム腺、Zeis腺、Moll腺の分泌物からなる脂質層

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32491381/

 

涙は1日中分泌されていますが、通常はまばたきが涙を洗い流しているため眼の中で固まることはありません。

睡眠時などの閉眼時はまばたきが途絶えるため、分泌物が洗い流されず固まり、目脂として出てきやすくなります。

健常人でも起床時に目脂が多いのはそのためです。

https://www.allaboutvision.com/ja-jp/shoujou/meyani/

 

具合が悪くなると臥床気味になり、必然的に閉眼している時間が増え、眼脂の増加を自覚する患者もいるかもしれません。

 

残念ながら、上大静脈症候群や顔面浮腫と眼脂について書かれた文献は検索した限りみつからなかったので、上記は単なる個人的推測です。

ちなみに上大静脈症候群や顔面浮腫と流涙増加のついて書かれた文献も調べた限り見つかりませんでした。

 

 

同じ疑問を感じた人のために、共有しておきます。

一般内科医も知っておきたい身体障害者手帳の内部機能障害について

医学の知識も大事ですが、医療の知識が患者を救うこともあります。

身体障害者手帳について勉強したら、一般内科医も知っておいた方が良いと思う事項があったので共有します。

身体障害者手帳は症状が固定化した身体障害を有する患者が申請し取得できるもので、医療福祉や税制上など様々な優遇を得ることができます。また障害のため一般就労が難しい方は障害者枠での雇用についても相談することができます。

※障害雇用促進法で、一定人数の従業員を抱える企業は一定割合人数の障害者雇用義務があり、達しない場合は納付金が課せられます。

 

身体障碍者手帳は、指定医の診断書などを添えて各自治体の障害福祉窓口で申請することができ、主に下記の5つに大別されます。

 

視覚障害

・聴覚または平衡機能の障害

・音声機能、言語機能又は咀嚼機能の障害

・肢体不自由

・内部機能障害(心臓、腎臓、呼吸器、膀胱直腸、小腸、HIV、肝臓)

 

https://www.atgp.jp/knowhow/oyakudachi/c212/

https://plus.spool.co.jp/article/certificate.html

 

そのうち、上4つはイメージしやすいですが、内部機能障害でも身体障碍者手帳が取得でいます。

各々の認定基準は下記URLを参照いただければと思いますが、心房細動などの心電図異常があり屋外活動で心不全狭心症症状が出る場合は”心臓”、クレアチニンリアランスが30未満で腎性貧血や電解質異常などがあれば”腎臓"、PaO2が70mmHg以下なら"呼吸器"の認定基準を満たしたりします。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/shinshou_techou/sintaisyougaininteikijyun.html

 

これを知って、過去に内科外来で定期診察していた患者で障害者手帳の取得要件を満たす患者が何人も思い浮かびました。中には金銭的な厳しさや受診の大変さを訴えていた方もいたので、その時に手帳があれば金銭補助や公共交通機関の補助、タクシー券などを利用できる可能性があります、とお伝えできたのに・・・と当時の知識不足を悔いました。

 

社会福祉士ソーシャルワーカー)や自治体の障害者福祉担当の方は当然この制度についても詳しいですが、それを知らない患者がまず症状を訴え医療機関に受診することは容易に想像できます。そこで直接応対する医師や看護師が、身体障碍者手帳の適応や有用性に気付かないと、利用できる制度を知らないまま医学的治療だけが進んでしまいます。

 

『もしかしたら、身体障碍者手帳の申請をすることで様々な補助が受けられるかもしれません。良かったら相談窓口を紹介しましょうか』

と声をかけられるようになれば良いなと思います。

 

 

 

ホスピタリストも知っておきたいリハビリ算定の基礎知識

リハビリには下記の表の通り主に6種類の区分があり、各々で算定日数制限や点数などの違いがあります。 

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リハビリテーション料(Ⅰ)の届出を行った保険医療機関の点数

どの患者にどのリハビリ区分で算定するかはリハビリテーション医が詳しいですが、リハビリを専門にしていない一般のホスピタリストの先生方にも知っておいてもらいたい基礎なのでまとめてみました。

各々のリハビリの適応は下記の通りです。概念を理解しやすくするため、おおまかな適応を言語化して記載します。詳細な適応については添付したURLをご参照ください。

 

・脳血管リハの適応:

神経疾患(筋炎含む)、発達障害、難聴、構音障害を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-30/420

・運動器リハの適応:

骨、関節、筋、腱の障害を有する患者、もしくは運動器不安定症を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1483

https://www.joa.or.jp/public/locomo/mads.html】※運動器不安定症について

・呼吸器リハの適応:

呼吸器疾患を有する患者、もしくは頚胸部~上腹部の手術をする患者(術後肺炎予防)

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1489

・心大血管リハの適応:

心血管疾患を有する患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1424

・廃用リハの適応:

急性疾患に伴う安静で、FIM (Functional Independence Measure)≦115点、もしくはBI (Barthel Index)≦85点の患者

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1454

https://hospital.tottori.tottori.jp/files/20180720151507.pdf】※FIMやBIについて

・がんリハの適応:

がんの手術、化学療法(骨髄抑制を来しうるもの)、放射線治療、造血幹細胞移植をする患者。

 【https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1695

 

※嚥下障害があり嚥下内視鏡や嚥下造影検査で毎月確認できる場合、上記6つのリハ区分とは別に摂食機能療法という枠で摂食嚥下リハビリを行うことができます。こちらは30分以上のリハビリで1日185点となっています。発症4ヶ月以降は月に4日のみ算定可能となります。

https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/1672

 

 

 

入院患者の2/3が高齢者となった現代では、患者に複数のProblemがあることが多く、

患者によっては複数のリハの適応がある場合があります。

その際は各々のリハビリの違いにより、どのリハビリを算定するか考えることになります。

 

なお、発症もしくは手術/急性増悪によりFIMが1週間で10点以上低下した場合は、早急にリハビリ介入した方がADL改善に良いためそのリハビリには加算がつけられています。初期加算として発症もしくは手術/急性増悪日(起算日)から14日間まで45点/単位が追加になり、早期リハビリテーション加算として起算日から30日目まで30点/単位が追加になります。よって初期加算+早期リハビリテーション加算を合わせると、14日までで75点/単位、15-30日で30点/単位が追加されることになります。

 

なんとなく分かりましたか?

習熟度の確認に、下記に例題を出すのでリハビリ区分の選択や点数について考えてみてください。

 

■例題.

80歳女性。心房細動を伴う心不全および右被殻梗塞の既往あり左不全麻痺と軽度嚥下障害を有するが、杖歩行でADL自立していた。急いで食事を食べたときのむせ込みをきっかけに3日前から発熱、咳嗽、喀痰、両下腿浮腫、労作時呼吸困難あり、体動困難になり救急搬送。脳梗塞の再発を疑う所見はない。誤嚥性肺炎に伴う心不全急性増悪の診断で入院となった。病院に嚥下内視鏡や嚥下造影を行える設備はない。

 

いかがでしょうか。キーポイントは下記です。

・ 今回の入院は脳梗塞加療目的ではないため、脳血管リハは考慮されない。

誤嚥性肺炎は呼吸器リハを算定できる。

心不全急性増悪は心大血管リハを算定できる。

・ADLの低下から廃用リハを算定できる。

・嚥下内視鏡や嚥下造影ができないので摂食機能療法でのリハは考慮されない。

 

このなかで、誤嚥を来しているため入院中ST(言語聴覚士)の介入も依頼したいので、STを処方できない心大血管リハは好ましくないです。

嚥下内視鏡や嚥下造影ができる施設の場合、PTやOTを心大血管リハで算定しつつSTの介入は摂食機能療法で算定することもできますが、本症例では適応外です。

また廃用リハは、その汎用性の高さからいざというときに残しておきたいという思考をリハ医は持っています。必ず廃用リハの期限が切れる120日以内で退院できれば良いですが、予定外のことも起こり得ます。新たな疾患を合併するなどして入院が長引いた場合、そこを起算日として別のリハビリを処方することができますが、その時のために汎用性の高い廃用リハを残しておきたいのです。

なので、廃用リハより5点/単位低いですが、私だったらまず呼吸器リハで算定します。

もちろんADLの低下の程度から初期加算や早期リハビリテーション加算の適応があるので、両者も算定します。

 

・起算日~14日:175+45+30=250点/単位

・15~30日:175+30=205点/単位

・31~120日:175点/単位

※120日で退院できなかった際は、その理由にもよるが廃用リハに切替え考慮:180点/単位

 

なおリハビリは1日6単位(回復期リハ病棟は1日9単位)まで認められており、急性期病棟では包括医療費支払制度方式(DPC)を導入している病棟もリハビリは包括評価部分とは別に出来高部分として算定することができます。

※1単位:20分

 

以上、リハビリ算定の基礎知識についてまとめてみました。

リハビリ医がいない医療機関も多いので、リハビリを専門にしていない一般のホスピタリストの先生方も知っておいて損はないと思います。少しでもリハビリへの理解が深まれば幸いです。

 

産業医の資格をとりました

産業医の集中講義を受けて産業医資格をとりました。

内容がとても有意義で、産業医の存在は臨床医のみならずすべての労働者に知る価値があることだと思ったので概要を共有します。

 

労働者には、自らの健康を保つよう努める自己保健義務がありますが、事業所にも労働者の健康を守る義務である安全配慮義務があります。

安全配慮義務を十分果たすために、労働者が50人以上いる事業所は産業医の選任が義務付けられています。産業医は事業者(社長)に安全配慮義務に関わる提言を求められており、事業者も産業医の勧告を尊重しなければならないと定められています。

産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項に規定されていますが、大きく分けると下記の3つになります。

 

①労働者の作業環境管理

※例:熱中症対策、換気対策、転倒防止対策、光源確保、疲れにくい椅子整備etc

②労働者の作業管理

※例:マスク装着指導、ヘルメット装着指導、手指衛生指導etc

③労働者個人の健康管理

※例:受診勧奨、出勤の可否判断・配置転換etc

 

上記管理を行うために、職場巡視(1-2カ月に1回以上義務)、事業所の安全衛生委員会への参加、事業所マニュアル作成(発熱時対応マニュアルetc)、健診・ストレスチェック評価、懸念がある労働者への面談、健康教育などを行うことが求められています。

 

対応疾患の守備範囲はとても広く、下記の例のように多岐に渡ります。

うつ病などメンタルヘルスに問題を来した患者の受診勧奨、時短勤務や休職、配置転換の推奨。復職の推奨。

脳梗塞を発症し片麻痺となった患者の配置転換の推奨。

・新入職した障害者に働きやすい環境を提供。

・重度高血圧症だがシフトによる不定期勤務で降圧薬など内服忘れがある患者の勤務時間固定の推奨。

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある労働者に受診勧奨し、運転業務からの配置転換の推奨。

じん肺を発症した患者の配置転換を推奨し、作業環境管理や作業管理を見直す。

・インフルエンザやCOVID-19に罹患しないよう手指衛生や密を避ける指導を行い、従業員が罹患してしまった際のフローチャートも作成する。

生活習慣病予防・社内健康増進目的に、社内健康教室や社内運動会を企画。

 

 

なので、労働者は産業医の存在を知っているだけで、いざという時に頼ることができます。また臨床医も産業医の存在を知っているだけで、受持患者の労働環境に懸念がある場合は産業医と相談するよう指導することができます。

 

産業医と臨床医の連携も重要で、産業医から臨床医へ情報提供依頼をすることが多いですが、臨床医から産業医への書面での情報提供も可能です。診断書扱いで作成して患者に渡し産業医と相談するよう伝えたり、診療情報提供書(産業医は保険医療者ではないので保険点数はとれない)を作成したりする方法があります。

 

なお、じん肺などの職業病に関しては比較的厳密な就業制限の規定がありますが、それ以外の生活習慣病などは厳密な規定はなく、産業医が個々のケースごとに就業制限の必要性などを判断します。その際、産業医が大体どれくらいの値の時に就業制限を考えるかという研究結果があり、判断の参考になるかもしれません。

収縮期血圧:180mmHg以上

拡張期血圧:110mmHg以上

・Cre:2.0mg/dL以上

・ALT:200IU/dL以上

・空腹時血糖:200mg/dL以上

・随時血糖:300mg/dL以上

HbA1cJDS):10%以上

・Hb:8.0g/dL以下

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1539/joh.15-0188-OA】 

 

疾患に関し職場環境の改善を産業医に検討してもらう選択肢を持てたことが、個人的には一番の収穫でした。今後機会があれば実際に産業医としても働いてみたいと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/000501079.pdf

 

肝疾患でIgAが高値になる機序

アルコール性肝炎の患者のIgAが高値でした。
その機序について調べてみたので共有します。
 
血清中のIgAは単量体がメインだが、唾液、胃液、腸液、涙、初乳、粘液、汗などの分泌物中では二量体として存在する。
二量体IgAは多くの分泌液中に存在するリゾチームと共に作用し、細菌細胞壁中の糖鎖を加水分解し細菌を除去する。
 
腸では、腸管関連リンパ組織(小腸におけるPeyer板、孤立リンパ小節、大腸のColonic patch、腸間膜リンパ節など)にリンパ濾胞が存在し、そこでIgAなどの産生が行われている。
肝疾患がある場合、腸管経由の外来抗原に対しポリクローナルな抗体増加がみられる。
 
肝疾患の中でも特にアルコール性肝疾患ではよりIgAが高値になりやすいことが知られている。
肝逸脱酵素異常がある患者の中でも特にアルコール性肝疾患がある患者では、IgAが感度50%、特異度78%で高値になりやすい。
更にアルコール性肝障害では重症度に伴いIgAが上昇する傾向がみられた。
やはり、腸管透過性亢進によるエンドトキシン血症がIgA産生増多の機序として考えられている。
なお肝疾患時の血清中IgAは単量体の割合が減少し、二量体の割合が増加することが知られている。
実際に抗菌作用を持つ二量体IgAが高値になるということは、やはり実際にエンドトキシン血症に対抗するための増加であることを示唆するものかもしれない。