きのこの備忘録

筆者が調べた事やまとめた事を共有しています。医療職を対象とした記事がメインです。論文のような正確性よりは分かりやすさを優先して書いています。一般臨床への応用は自己責任でお願いします。

片耳に声が響く? 耳管開放症の病態生理

最近自分がよくなるのですが、ある時不意に片耳がくぐもって声が響くようになります。何だろうと思って調べてみたら、恐らく耳管開放症でした。

今回は耳管開放症について勉強したことを共有していきます。

 

耳管は中耳腔と上咽頭(鼻咽腔)をつないでおり基本的に安静時は閉鎖していますが、嚥下時には生理的に短時間開きます。耳管には、口蓋帆張筋、口蓋挙筋、鼓膜張筋、耳管咽頭筋の4つの筋が隣接しており、この中の口蓋帆挙筋や口蓋挙筋は嚥下時に収縮し軟口蓋を上げることで食物が鼻咽腔に入るのを防いでいますが、同時に耳管を開放する作用を持っています。

※口蓋帆挙筋や口蓋挙筋の解剖は下記参照。

https://funatoya.com/funatoka/anatomy/spalteholz/J681.html

 

よく飛行機などで急に高度を上げたときに両耳がくぐもる現象に遭遇すると思うのですが、あれは高度が高い方が空気が薄く気圧が低いので、鼓膜内外の圧較差により鼓膜に外向きの力が加わるからです。よく唾を飲んで対処するように教わると思いますが、そうすることで口蓋帆挙筋や口蓋挙筋を収縮させ、耳管を開口させて鼓膜の内外の気圧を同じにしています。

 

この耳管の開口が嚥下時と関係なく起こってしまうのが耳管開放症です。

音は空気の振動なので、自分の声も開放した耳管を通って直接中耳に運ばれるため、自部の声響いて聞こえたり(自声強聴)、自分の呼吸音が大きく聞こえたりする現象が起こります。

耳管の開口部が鼻咽腔にあるので、特に鼻声となる「ナ行」「マ行」「ン」が響きやすいと言われています。アルファベットでは"m"と"n"ですね。

 

耳管開放症になる原因としては、アレルギー性鼻炎副鼻腔炎、咽喉頭酸逆流症(逆流性食道炎で胃酸逆流が咽喉頭まで及んだ状態)などの長期の炎症により耳管粘膜が萎縮し起こる事や、体重減少、筋萎縮、脱水症などが背景因子として示唆されています。

 

自分は減量中や運動後によくなるので、恐らく体重減少や脱水が関与していそうです。

 

ちなみに耳管拡張症は体位の影響を受け、座位や立位で誘発・増悪、臥位や前屈位で改善・消失することがあります。これは、耳管近傍の翼突筋静脈層が体位変換により容量を急速に変化させるためと言われています。

下記参考文献の診断基準案などにも体位変換の影響は記載されており、診療上の参考になります。

 

治療に関しては、自分を含め一過性で終わることも多いですが、長引いたり繰り返したりする際は介入が検討されます。

原疾患がある方はその治療の他、生理食塩水点鼻(点鼻後患側が下になるよう体位変換することで耳管に生食を流下させる)による耳管閉鎖、漢方薬(末梢血流増加作用のある加味加脾湯など)などの保存的治療や、シリコン製の耳管ピンを挿入したり、耳管をバルーンで拡張したりする外科的治療があります。

 

耳管も調べてみたら奥が深いですね。

以上、参考になれば幸いです。

 

※下記参考文献です

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/7/120_946/_pdf

https://www.uptodate.com/contents/eustachian-tube-dysfunction?search=Patulous%20Eustachian%20tube&source=search_result&selectedTitle=1~4&usage_type=default&display_rank=1