栄養評価の指標、MNAについて
今月から勤務中のリハ病院では、入院患者に定期的にこれを評価しています。
この指標で何が分かるか、自分なりに調べてみました。
1990年代に開発されたMNA(Mini Neutritional Assessment)は65歳以上を対象とした栄養評価の指標であり、30点満点中何点をとるかで低栄養のリスクを階層化することができるようです。
・24点以上:良好な栄養状態
・17-23.5点:低栄養のリスク
・17点以下:低栄養
このカットオフ値は血清アルブミン濃度をもとに設定されたようですが、その後の研究でアルブミン値やBMIが正常範囲であってもMNAで"栄養不良のリスク"に該当する高齢者が約20%いることが分かりました。彼らの食事摂取カロリーは"良好な栄養状態"の高齢者と比較して少なく、MNAは体重や血清アルブミンの変化が生じる前に高齢者の栄養状態を評価できるツールであることが示唆されました。
実際、MNAの評価を受けた1年後を調べた研究では、"栄養不良"に該当する者で48%、"栄養不良のリスク"に該当する者で24%、"良好な栄養状態"に該当する者で0%が死亡していたという報告もあるようです。
"栄養不良"に該当するものの約半数が亡くなるというのはやや特殊な母集団でだと思いますが、将来の死亡率とも相関するとなると適切な対処が必要になってきますね。
これをすべてやるには15-20分かかるということで、より簡略化され5分以内に行える14点満点のMNA-SF(Short Form)が考案されました。その場合のカットオフ地は下記になります。当院ではこれを評価しています。
・12点以上:良好な栄養状態
・8-11点:低栄養のリスク
・7点以下:低栄養
【https://mna-elderly.com/forms/MNA_japanese.pdf】
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11382797/】
栄養はリハビリを行う上で重要になります。栄養がないと筋トレをしても筋力はつきません。BMIが正常範囲だったり、採血上で既に栄養不足の徴候が表れている場合はもちろんですが、そうでない場合もMNAで事前に栄養不足のリスクを評価することは意味のあることだと思います。
カテーテルアブレーションの合併症
カテーテルアブレーション後に心膜炎を来した方をみたので、カテ―テルアブレーションの合併症について調べてみました。
主要な合併症は疾患によっても異なるようです。焼き切る部位によって合併症の起こりやすさが異なるのは了解可能です。
・上室性頻脈への手技で0.8%
・特発性心室性頻脈への手技で3.4%
・心房細動への手技で5.2%
・器質性心疾患に続発した心室頻拍への手技で6.0%
こうしてみると、心房細動は意外と高いようです。
全体では
・死亡:0.1%
・心タンポナーデ:0.7%
・心嚢水貯留:0.5%
・全身性塞栓:0.1%
・後腹膜出血:0.3%
・鼠径部血腫:0.5%
・偽性動脈瘤:0.4%
・動静脈瘻:0.1%
・深部静脈血栓症:0.1%
・誤嚥性肺炎:0.2%
・肺水腫:0.1%
・心臓伝導障害:0.1%
・非尿生殖器の外傷:0.1%
となっています。
別の文献ではカテーテルアブレーションを施行した人の1割が発熱を来し、その原因として心膜炎は3-4%と記載している文献もあるので、決して多い合併症ではなさそうです。
カテーテルアブレーションの合併症はよく知らなかったので、勉強になりました。
【https://www.heartrhythmjournal.com/article/S1547-5271(11)00604-7/pdf】
【https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/44/SUPPL.2/44_S2_142/_pdf/-char/ja】
心室性期外収縮でのカテーテルアブレーションの適応
心室性期外収縮でカテーテルアブレーションを施行されている患者をみたので、どのような患者が適応になるか調べてみました。
・動悸など心室性期外収縮の症状を来している時
・ホルター心電図で脈の10%以上、もしくは10000回/日が心室性期外収縮がある時
・心室性期外収縮が原因で心筋症になっていると考えられる時
上記のいずれかの状態で、心不全症状を来すときやβ阻害薬もしくはカルシウム阻害薬を用いても良くならない時は、カテーテルアブレーションを考慮しても良いようです。
ごく当たり前のように心電図で目にする心室性期外収縮にも治療を考慮した方がよいときがあるようです。通常の12誘導心電図では記録時間が短いので、例えば1枚の心電図用紙で2個以上の心室性期外収縮がみてとれる患者などでは、少し長めに心電図を記録してその頻度を確認したり、場合によってはホルター心電図を試みても良いかもしれません。
回復期リハビリテーション病院と薬価の関係
骨折による血清CRP値の推移
骨折後のCRP高値は比較的よく見ますが、その自然経過について調べてみました。
手術をした方がしないよりCRP値はやや高値になるようですが、基本的に外傷または手術の2-3日後にCRPはピーク値をとり、以後漸減し3週間ではほぼ正常化するようです。
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8340178/】
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2756812/】
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2380213/】
術後4日目にCRP≥9.6mg/dLである場合は、感染症を合併している可能性を考慮する必要がありそうです。
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18622849/】
この2-3日という時間差は、局所で白血球が炎症性サイトカインを分泌し、それが指令となり肝臓がCRPを生成するまでにある程度時間がかかることで生まれます。細菌感染症でも同様に時間差を感じることがあると思いますが、同じ理屈ですね。
【http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/97.html】
【https://www.horiba.com/fileadmin/uploads/Medical-Diagnostics/Documents/tec_jp/3uhw_hnl_no2.pdf】
整形外科から骨折での入院患者のCRP高値でコンサルトを受けた際や、リハビリで受け持った骨折患者がCRP高値を認めている際は、上記の推移を知っていると役に立つと思います。
回復期リハビリテーション病院の実績指数
回復期リハビリテーション病院は、設備や実績により得られる入院費が異なります。
すなわち、手厚い設備があり患者のADLをより向上させた実績がある病院は高い診療報酬を請求できることになっています。
基本入院料は一番高い"入院料1"が1日21290円(2129点)であり、一番低い"入院料6"が1日16780円(1678点)であり、約5000円の開きがあります。
【https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-2/2220】
※令和2年の診療報酬改定での金額です。
当然、病院側はより高い入院料を算定できるように実績を上げようと試みます。
その実績を表すのが、”実績指数”です。
"実績指数"の計算式は、入退院前後のFIM値の変化度に、リハビリ算定上限日数と入院日数の比をかけたものになります。
【https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000184198.pdf】
※FIMは下記参照
【https://rehaplan.jp/articles/338】
例えば、高次脳機能障害を伴った脳梗塞で回復期リハビリテーション病院に入院して、90日でFIMが50→100点に上昇したとすると、上記疾患の算定上限日数は180日なので、実績指数は(100-50)x(180/90)=100となります。
より短期間で、FIM値を向上させられた場合に実績指数は高値になるわけです。
※各疾患の算定上限日数は下記参照
【https://kaifukuki.doctorsfile.jp/number/02】
"入院料1"をとるためには平均40以上の実績指数が必要になります。
ちなみに回復期リハビリテーション病院の判断で、入院患者の3割を上限に、入院時のFIMが低すぎる患者や高すぎる患者を実績指数の算定から除外することができます。
これはFIMが低すぎる患者や高すぎる患者は、入退院前後での変化度が少なくなる可能性があるからです。
"入院料1"を算定するためには重症患者(FIM55点未満)も3割以上必要になるなど、実績指数以外の要素も大事になってきます。
そのため回復期リハビリテーション病院では、入院判定会を開き、どの患者を引き受けるか考えます。
条件の良い患者だけを選んで引き受けていたら良いと思うかもしれませんが、近年場所によっては回復期リハビリテーション病院が乱立し競争が激化しており、ある程度見通しのつきづらい患者や改善の見込みが薄い患者であっても引き受けなければ、急性期病院との連携の上で今後患者を紹介してもらえなくなるリスクにつながります。そのため、慎重な舵取りが求められる場合もあります。
骨折後の血清ALP値の推移
ALPはアルカリ環境下でリン酸化合物を加水分解する酵素で、肝臓、骨、小腸や胎盤に多く含まれています。骨ではALPは骨芽細胞膜に存在し、骨形成の際に血中に流出しますが、骨折の際の血清ALP値の推移について調べてみました。
大腿骨頸部骨折、転子部骨折で手術をした69人を対象にした研究では、術後3週間で血清ALP値はピークに達し、その後徐々に減少に転じたようです。
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16568384/】
少し古い研究ですが、4週間以上入院すると思われた骨折患者45人(うち39人が大腿骨頸部骨折)を対象とした研究では、血清ALPは受傷後第4週にピークに達し、少しずつ低下していくようです。そして第8週にも正常範囲にはまだ届かないようです。
【https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1603367/?page=1\】
同じく少し古い研究ですが、骨折直後は血清ALPは正常であることが多く、7-9日後に上昇し、骨折後1ヶ月以内にピークに達するようです。
【https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/627581/】
骨折でのALP値の推移は知らなかったので勉強になりました。